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今思えは、昭和の四十四、五年ごろであったと記憶する・・・
ある日、先生の用足しで横浜まで出かけての帰りだった。有楽町駅に着いたのはランチタイムを遥かに過ぎていたので、いつも食べる松屋デパートの地下にある「七福」に行く時間を逸してしまった。事務所に戻っての昼食だと2時を廻ってしまうし、ランチタイムサービスを外すと銀座は食事代が高くつく!
そこで、有楽町駅前で簡単に済まそうと考えて、ガード下にあるカウンターに4人も座れば満席になるような小さな「牛丼屋」に飛び込んだ次第・・・
牛丼定食を注文すると、まもなく牛丼と味噌汁がカウンターに並べられた。
流石に駅前の飲食店は注文から出されるまでの時間が短い。味もまあまあだなと感じながら、丼を片手に牛丼を食べていたら・・・
何かが目の前で動く?
良く見ると、ゴキブリがカウンターを闊歩していたので店主に、
「親父さん!これ!」
と、ゴキブリを指差したところ、
店主はやおら「ハエたたき」を取り出すや否や 「パッシ!」 とゴキブリを一撃で潰した。そしてお陀仏になったゴキブリを、ハエたたきの穂に乗せると慣れた手つきで屋外にポイッ!
一撃でゴキブリを退治する熟練の技である。て言うことは、このカウンターはゴキブリが常時お出まししていることか?とあれこれ思案していると・・・
眼光鋭いこの屋の店主が僕に眼を飛ばして、
「ゴキブリが居るてぇことは、うちの食材に毒が入って無いってことだよなぁ!えッ兄(にい)ちゃん!そういうこちゃだろう・・・・えッ!」
と同意を求めてきた。
(ワナ・ワナ・ワナワナワナ。このおっさんは、ただものではない!東映映画高倉健が演じる世界の人かも!! くわばら!くわばら!
)
「そうだネ・・・」
と僕も心にもない返事をする気の弱さ!
急に食欲が失せたが、残すとこの店の主に何を言われるか分からないので無理して胃に押し込んだ・・・
思えば、これが今の肥満の要因かも知れない!
青春は、理不尽な要求も、時には甘受せねばならないこともあるを知れ!
決していきがらず、一歩退く「くわばらのこころ」が肝要と教えられた牛丼屋の一コマである。
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